【脂質の重要性】筋トレやダイエットに欠かせない脂質

Steak

大栄養素である「脂質」は、筋トレやダイエットの敵として良く取り上げられます。その理由は、同じ1gを消費するのにタンパク質と炭水化物は4kcalなのに対して、脂質は9kcal必要なことと、そもそも脂質は「何となく脂質=体脂肪になりやすい」という印象が強く、体にとってどのように作用するのかイマイチ分からないことが大きいかと思います。

多くのテレビ番組でも、ステレオタイプに「油の摂取を減らしましょう」「植物油や魚の油を摂りましょう」と発信されてきましたが、なかなかきちんと体における「脂質」の影響は理解しきれていないのではないでしょうか。

脂質は本当に体脂肪になりやすいのか?

脂質は体脂肪になりやすい、またはカロリーオーバーしやすいので体脂肪が増える大きな要因だ、と思われている人も多いと思います。

そこで、まずはあるイギリスの認定パーソナルトレーナー氏による、以下の過食実験をご覧ください。カロリーオーバーだけで人はどこまで太るのか、またPFCバランス(タンパク質、脂質、炭水化物の割合)を変化させるとどうなるかという実験です。

実験は、食事の内容を変えるだけで1日約5,800kcalを21日間にわたり摂取し、カロリー消費に関しては特に運動はせず、基礎代謝や一般的な生活活動のみによる消費としています。

高脂質食を摂り続ける

  • タンパク質:37%
  • 脂質:53%
  • 炭水化物:10%

上記のPFCバランスで、5,800kcalを毎日21日間続けた結果は以下のとおりです。

  • 体重:85.6kg → 86.9kg
  • 腹囲:79.5cm → 76.5cm



Why I Didn’t Get Fat From Eating 5,000 Calories A Day Of A High Fat Diet

この結果からいえることは、腹囲の体脂肪が減り、除脂肪体重が増えた可能性が高いということです。彼は「食事の脂質が体脂肪を作ることはない」とコメントしています。もちろん、この一つの実験で結論づけることはできませんが、非常に興味深い結果です。まとめに関しましては、次の実験結果も見てからにしたいと思います。

高炭水化物食を摂り続ける

  • タンパク質:14%
  • 脂質:22%
  • 炭水化物:64%

上記のPFCバランスで、5,800kcalを毎日21日間続けた結果は以下のとおりです。ちなみにこのPFCバランスは、一般的に推奨されているバランスの良い食事内容に則っての割合です。(大幅な高カロリーの時点で、推奨もなにもないとは思いますが..)

  • 体重:89.7kg → 96.8kg
  • 腹囲:79.5cm → 88.8cm


Why I DID Get Fat From Eating 5,000 Calories A Day Of A High Carb Diet

この写真を見ると一目瞭然、二重あごにお腹周りの体脂肪、まさに高カロリー食を続けていると陥る体型ではないでしょうか。一般的に、運動もせずに食べ過ぎればこのような体型になってしまうでしょう。しかし、少し思い返してくださし。同じ高カロリー食でも、「高脂質食」の場合はこのような変化はありませんでした。

この実験から言える大事なポイントとしては、次の3点ではないでしょうか

  1. オーバーカロリーは体脂肪増の直接的な原因にはならない
  2. 脂質は体脂肪の燃焼を促す可能性が高い
  3. 炭水化物が体脂肪を増やす原因である

もともとこの実験は、1の「オーバーカロリーは体脂肪増の直接的な原因にはならない」を証明したいものだったので、予定された結果かもしれません。とはいえ、事実が物語るように決してまゆつばの結果であるとは言い切れません。

ここに「筋量アップ」「体脂肪減」の大きなヒントが隠されているのではないでしょうか。つまり、この結果にインスリンの働きを重ねて考えてみると、

  1. 炭水化物の摂取はインスリンの分泌をともない、余分な栄養を体脂肪に蓄える
  2. 分解されたタンパク質を筋肉に届けるにはインスリンが必要

インスリンの役割についてはこちらのページへ

となると、だんだんと答えが見えてくるのではないでしょうか?

  • タンパク質(Protein): 筋量アップの為には絶対に必要
  • 脂質(Fat): 体脂肪を燃焼する役割があれば前向きに摂取したい
  • 炭水化物(Carbo): エネルギーや筋量アップの補助として最低限に抑えたい

この基本的な性質を頭に入れて、自分にベストな摂取量やタイミングを探していくいことがとても重要なことになってきます。

体重、体脂肪が増える原因とは

まず、体重(体脂肪と除脂肪)が増えたり減ったりするロジックは何度も目にしていると思いますが、

  • 1日の摂取カロリー > 1日の消費カロリー = 体重増
  • 1日の摂取カロリー < 1日の消費カロリー = 体重減

と言われています。しかしながら、冒頭の実験結果を正とすると、「オーバーカロリーは体脂肪増の直接的な原因にはならない」ので、このロジックは成り立ちません。では、どうなるかと言うと、

  • 1日の摂取栄養素 > 1日の必要栄養素 = 体重増
  • 1日の摂取栄養素 < 1日の必要栄養素 = 体重減

という感じでしょうか。栄養素はカロリーに置き換えられるので、結局同じことを言っているのでは? と感じるかもしれませんが、大事なのはその栄養素(PFC)の割合ということです。

ただカロリーを増やせば良いというのではなく、それぞれの栄養素をどれだけ摂取し、また消費されるかということを重要視するのです。厳密にいうと、カロリーとならないビタミンやミネラルなどの栄養素もこの中に含まれます。

筋トレやダイエットにおける脂質の役割

さて前置きが長くなってしまいましたが、それではやっと本題に入りたいと思います。炭水化物は主にエネルギーに、タンパク質は筋肉に、では脂質は? ここまでの流れで言うと「体脂肪の燃焼促進になる可能性がある」ですが、脂質は極力摂取しないほうが良いと頭に刷り込まれているので、なかなかこの考えは懐疑的に思えてしまいます。

脂肪の細かい区別を周知させることは難しいと考えた栄養学者たちが、「脂肪は良くない」という単純なメッセージを作った..
Wikipedia

それでは、まずは脂質の必要性をできるだけ単純に解説してみたいと思います。一般的にいわれている脂質の役割としては、

  1. 脂質も血中に溶け込みエネルギーとして利用されます。
  2. 油脂に溶ける性質のビタミン(ビタミンA・D・E・K)である、脂溶性ビタミンの吸収を促します。
  3. 細胞膜や神経組織などの構成成分になります。
  4. ステロイドホルモンの生成を促進します。
    ※「ステロイドホルモン」とはコレステロールからり生成される脂溶性ホルモンで、副腎皮質ホルモンの総称です。副腎皮質ホルモンは、炎症の制御、炭水化物の代謝、タンパク質の異化、免疫反応など広く生理学系に関わっています。
  5. 炭水化物の血中への代謝を遅らせ、インスリンの分泌を緩和します。インスリンが一度に大量に分泌されるのを防ぎ、体脂肪への蓄積を抑えます。
  6. インスリンと逆の働きをする、体脂肪を分解してエネルギーとする「グルカゴン」を促進します。
    引用:Postprandial Glucose, Insulin and Glucagon Responses to Meals with Different Nutrient Compositions in Non-Insulin-Dependent Diabetes Mellitus.

このように脂質の役割を並べてみると、やはり3大栄養素と言われるだけあり、人間の身体にとってなくてはならないものと分かります。そして6の「グルカゴンの促進」が、まさに冒頭の実験結果である「体脂肪の燃焼促進」に繋がるポイントではないでしょうか。

グルカゴンとは?

余分なエネルギーを体脂肪へ蓄積するインスリンとは反対の働きをするホルモンで、体脂肪を分解して血液中に動員し、エネルギーとして利用できる酵素を放出するホルモンです。

また、インスリンと同様に血糖値を一定に保つ作用をするホルモンで、インスリンとは反対に血糖値が下がり過ぎて糖を必要とするようになったときにグリコーゲンの分解を促進します。

では、グルカゴンを上昇させるにはどうしたら良いか? まず第一にグルカゴンと対になっているインスリンの量を減らすことが肝心です。そして適度な脂質を摂ることも重要です。ちなみに、これは突き詰めると「ケトジェニックダイエット」に繋がるのですが、ここでは割愛します。

インスリンの役割についてはこちらのページへ

脂質の種類と注意点

さて、何となく体脂肪の燃焼には脂質が欠かせないということは分かってきましたが、では脂質(油)なら何でも良いのでしょうか? 直感的に肉に付いている脂身はイヤな感じですね。

脂質は構造的な特徴から「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けられます。不飽和脂肪酸はさらに構造が複数に分かれ、性質や栄養的な働きが変化します。

飽和脂肪酸の特徴

飽和脂肪酸は、肉類や乳製品の脂肪に多く含まれています。血液中の中性脂肪やコレステロールなど脂質濃度の上昇に関与し、とり過ぎると動脈硬化に繋がるおそれがあります。また、マーガリンは植物油が原料ですが、添加物を加えて飽和脂肪酸に変え固形化させています。

特に飽和脂肪酸の割合が高い食品はバターで、実に100g中に50gを超える飽和脂肪酸を含みます。ちなみに牛脂やラードでも約40g/100g、生クリームで約30g/100g、鶏皮やサーロイン肉で約15g/100gです。

ダイエット時にはこの辺りを積極的に控えていきたいですね。

不飽和脂肪酸の特徴

不飽和脂肪酸は、主に魚類や植物に多く含まれています。ここで一つポイントなのですが、魚類や植物の油にも飽和脂肪酸は含まれています。割合として不飽和脂肪酸が多いというだけですので、この点はしっかり頭に入れておく必要があります。

一価不飽和脂肪酸は総コレステロールを下げて、動脈硬化を予防する働きがあります。多価不飽和脂肪酸はその性質ごとにさらに分かれています。

多価不飽和脂肪酸の「オメガ3系」に関する詳細はこちらへ

脂質をとる際は、これら脂肪酸の割合をバランス良く考えることがとても重要になってきます。とは言え、飽和脂肪酸の量は意識していても積み上がってしまうので、やはり肉類や乳製品から脂質をとることは避けたいところです。

まとめとして

脂質は意識をしなくても何かと食事に含まれていますので、自然と量は増えてしまいます。特に外食が多くなると炒め物や揚げ物なども増え、その量はさらに多くなります。

意識すべきは、動物性の「飽和脂肪酸」は減らし、魚や植物性の「不飽和脂肪酸」を増やすようにする、ということでしょう。

また脂質の役割も理解されたかと思いますので、ダイエットのために一切の脂質を断つということはせず、適度に自分に合った量を摂取することをお勧めいたします。

例えば、できるだけ体脂肪を付けずに筋肉を増やしたいというリーンバルクを目指す際、ひとつの指標にPFCの割合を3:4:3にするというものがあります。

もちろん必ずしもコレが正解で誰にも当てはまるわけではありません。こういった指標を元にして、自分なりに脂質の量などを調整し適量を見つけていくことが大切です。